【吉永研究室】vol.1 「光で根っこを見る」
今回は東北大学との共同研究を担当する吉永さんに「吉永研究室」と題して研究内容について聞いていきたいと思います。まずは一昨年から東北大学と舞台ファームが共研究を行っている”放射光”を使った研究について聞いてきました!
西古:まず、研究の目的やきっかけを教えてください。
吉永:私たちの植物工場では土を使った培地ソイルブロックを用いてレタスを育てていますが、一般的に水耕栽培などでよく使用されるスポンジと比べて「根っこがよく育つ」という特徴があります。
このソイルブロックの特徴を科学的に確認するために、ソイルブロック内の種子や根の様子調べ、発根の過程や成長に影響する要因を理解することが重要です。
そのためには、ソイルブロック内の根や土壌の構造をそのまま可視化したいのですが、従来のX線CTでは性能が不足していました。
そこで、「放射光X線CT」を使った可視化が可能かどうかを検証し、(ソイルブロック栽培の)新しい評価方法として利用できるかを確認したいと考えていました。そこで東北大学の先生方へ相談し、共同で研究を進めさせていただく運びとなりました。
西古:その"放射光"とはどんなものですか?
吉永:放射光は、高速で曲がる電子が発する非常に強い光で、太陽光の数十億倍の明るさがあります。幅広い波長を持ち、X線や紫外線までカバーしています。
例えば、医療ではX線の強力な性能を使って細胞や組織を詳しく観察し、新しい病気の治療法を探ったり、薬の開発に役立てたりしています。また、材料科学では新しいスマホの画面やバッテリーを作るための研究に使われるなど、非常に強力なツールとして活躍しています。
西古:レントゲンの強化版、みたいなイメージをしました。(笑)では、具体的な実験の内容を教えてください。
吉永:理想は5cm×5cmのソイルブロックのまま根っこを観察することですが、まだ土の中身を測定するという技術が確立されていません。そこでまずは数cm径のストローの中で発芽させ、その様子を観察するという手法を取りました。
紆余曲折を経りましたが最終的に先生方の熱心なご協力のおかげで根を観察することができる条件を見つけることができました。本当に感謝しかありません。
放射光で実際に観察した根の動画↓
吉永:こちらが実際にサンプルの真上から下方へスキャンした動画です。光を吸収する物質は黒く、空隙は白くなっています。最初に映っているのは芽で、中の維管束まではっきりと映っています。途中から種、土に到達し、途中から芽から根に切り替わりまっすぐと下までの伸長している様子がみられます。1回の測定だけで数時間がかかるかなり大掛かりな実験ですが、未知の発見につながる可能性のある夢のある実験なのですごくワクワクしながら進めています。
西古:こんなふうに見えるんですね!今回は実験方法の確立がテーマとして放射光を使用した可視化ができたとのことですが、この研究の次の目標を教えてください
この事業を通じて、ソイルブロックの根の成長を観察する条件を特定できました。ソイルブロックの優位性を科学的に追求するため、根の成長がソイルブロックの空隙率などの構造に起因するのか(充填率と根の成長の関係性の調査)や、含まれる元素や栄養素の違いによるのか(成分を加えて根の成長の違いを調査)などの学術的要素を調べたいと考えています。
また、放射光を使って可食部を測定すればレタスの成分だけでなくその成分や密度の分布も計測できるため、「美味しい」という主観的な概念を数値化して可視化することができます。この試みにナノテラスを利用して挑戦したいと思っています。
ナノテラスとは?
ナノテラスは、東北大学の青葉山新キャンパス内に完成した東京ドームほどの大きさの、世界最高水準の分析機能を持つ次世代放射光施設です。2024年の4月から運用が開始されました。
続く