【専務のひとりごと vol.6】考察 〜なぜ、オランダは世界第2位の農業大国となったのか〜

皆さんは、「オランダ」と聞いて、どんなイメージをお持ちになっているでしょうか。

風車、運河、チューリップ畑、独特の街並み。

サッカーやスケートが強い国。

フェルメールやゴッホなどの美術。

さまざまなものが、思い浮かぶと思います。

農業においては特に、オランダは「世界第2位の農作物輸出国」として、また、いわゆる「スマート農業の先進国」として、まさに世界の農業をリードしている国の一つです。

しかしながら、オランダの国土としては、日本の「九州」と同じくらいの面積であり、人口も1,800万人くらい。他国に比して狭い国土で、また人口もそれほどは多くないにも関わらず、どうしてオランダは、それだけの農作物を生産し、輸出し続けることができているのでしょうか。

今回は、なぜオランダが農業で世界第2位となり得たのか、という点について、時々ご質問を受けることもありましたので、以下は個人的な視点ですが、私なりに考察してみたいと思います。

1.洪水との戦い 〜厳しい環境から発展したスマート農業〜

オランダは、国土のほとんどが200m以下の低地で、1/4ほどが海面より低くなっています。(ちなみに、オランダの国名「Nederland」は、「低い土地」という意味だそうです)

海面下の土地が多いということもあり、高潮などの洪水も頻繁に発生しており、特に1953年の高潮では、国土の約10%も浸水し死傷者も多く発生するなど、とても大きな被害になりました。

町や農地、家畜などの財産を洪水から守り、また同時に、干拓地を拡大していくためにも、堤防や風車、灌漑設備などの治水技術が発達しました。

以前、オランダの友人に「オランダで、なぜスマート農業が発展したのか?」と聞いたところ、次のような答えが返ってきました。

「治水技術、特に『風車』が大きいのではないか」

「風車は、風力を活用し水を汲み上げて干拓に利用されるだけではなく、風車の歯車機構に、別の機構やアタッチメントを接続することで、製粉したり製材したり、紙や油や香料を製造することにも、応用された」

「農業には欠かせない灌漑・治水技術に加え、複雑な機構を駆使する機械化にも伝統的に長けていたことが、現代オランダのスマート農業の発展に繋がっているのではないか」

 日本も非常に自然災害が多い国であり、世代を超えて「知恵と工夫」で乗り越えていくことで、農業技術を発展させてきました。

この点で、日本はオランダに相通じるところが、あるかもしれませんね。

2.オランダ人はケチ? 〜合理的な思考からの農業〜

「A国は酒飲みが多い」「B国は愛が全て」「C国はマジメ」などのように、お互いの国の印象を、おもしろく評価することがありますが、他の国の方から見たオランダの印象の一つに、「オランダ人はケチ」というものがあります。

オランダは、古くから商業が発達しており、国民性として実利的、倹約的なところから、このようなステレオタイプが出てきたのかもしれません。

(面白いことに、当のオランダ人たちは、他からケチと言われていることを、ジョークで話したりします)

彼らと実際に接してみると、「合理的な思考を持っている」と感じる場面が多々あります。「ケチ」という他国からの印象も、この合理的思考から来ているのではないか、と推測します。

オランダの有名な政策として、大麻等のソフトドラッグを許容し、性産業においても合法化することで、これらにおける犯罪組織の影響を減少させ、公衆の治安維持を推進しています。この点からも、合理的でリベラルな考え方であることが分かります。実際、アムステルダムの繁華街を夜出歩いたりもでき、オランダは治安も比較的良い国となっています。

「COFFEE SHOP」大麻が吸えるお店

農業に関しても、過去、農業省が経済省に統合されたこともあり、国家経済を支える重要な産業として農業を捉えており、一貫した政策を打ち出すことで、オランダの国際競争力を強化している、と言われています。

3.寛容性の高い国民性 〜労働力目線で見たスマート農業〜

また、オランダは、非常に「寛容性が高い国」でもあります。

首都アムステルダムの街を歩きますと、様々な人種が行き交っているのに驚きます。私も何度も行っていますが、お店やレストランにおいて、何らかの差別を受けたことは一度もありませんし、言葉においても英語がきちんと通じますので、言葉が通じずお店で苦労したこともありません。

寛容性が高い=個人や人権を尊重する文化であることは、例えば、世界に先駆けて「同性婚」や「安楽死」の合法化を成立させていることからも、理解できます。

このような環境ですので、海外からの労働者も、オランダはとても住みやすく、働きやすいのだろうと推測します。

時に「スマート農業」において「自動化」がクローズアップされがちですが、実際の農場では、全てが機械化・自動化されているわけでもありません。

収穫や調整作業、機械のオペレーションや維持管理など、機械化が難しい作業も非常に多く存在し、それらの業務は誰が行なっているかと言えば、EU圏内の労働力が比較的安価である地域(東欧など)からの「出稼ぎ労働者」が、それを担っていたりします。

先述の1、2の項目と合わせて考えますと、オランダは、伝統的に「機械化・自動化が得意な文化」であり、その上で「合理的な農業政策」や「農業経営」が遂行されており、さらに「労働力」としても他国を含めしっかり確保できている、という「三位一体の構図」が見て取れます。

これまでオランダ農業が強い理由を考察してきたわけですが、一方で、近年の気候変動や、ウクライナ紛争などの状況変化が起きている中で、オランダ農業にも大きな変化が現れてきているようです。

エネルギーコストがかかる閉鎖型植物工場から、さらに進化した環境制御システムがついた太陽光LED併用型植物工場が登場していたり、移民政策などの変化により労働力の確保が難しくなるや、劇的な変化を遂げているAIを活用し、なお一層、機械化や自動化推し進める企業が、新たに登場しています。

対外的な変化もあります。

劇的な気候変動は、オランダ以外の他国でも喫緊の課題となっており、ヨーロッパの別の国や北アメリカにおいても、大型の植物工場の建設が多数進んでいます。

オランダだけでなく、世界農業を取り巻く状況は、大きく変化しつつあるようです。

日本においても、ご承知の通り、毎年「猛暑」ならぬ「酷暑」が続き、農業を始めとした一次産業は、この直近5年だけでも大きな影響を受けています。さらに、高齢化や担い手不足による農業者の減少も、看過できぬ大きな問題です。

今後、日本でも植物工場は増加していくと想定されますが、舞台ファームにおいては、農業とエネルギー産業を融合した「農エネ業」を提唱しています。

当社代表の針生がよく講演で話していますが、「人間の食物をロボットが作り、同時にロボットの食物たる電気も作る。それが近未来の農業だ」という時代が、もう目の前にきているのかもしれません。

日本農業のパラダイムシフト、いわゆるXデーが秒読みの中、私たちも合理的思考を持って、安全保障の重要なファクターである「国家国民への食料供給」という責務を、しっかり果たしていきたいと強く考えております。

  

<おまけ>

日本とオランダは、交易などで江戸時代より長きにわたり関係性を有しており、私たちが知らないところで、意外と多くのオランダ語が日本語として定着しています。

「ランドセル」「カステラ」は有名ですが、「コップ」「ガラス」「パン」「ピストル」「ドロップ」「ヤッケ」「ズック」「スコップ」「ポン酢」なども、オランダ語が語源となっています。

変わり種で言えば、「お転婆(オテンバ)」も、実はオランダ語から来ています。

ちなみに、オランダの友人に「オッテンバー」と言ったら、意味も通じました(笑)

これ以外にも、とても多くの言葉が、オランダより来ています。

ぜひ一度、調べてみてください。

(専務取締役 伊藤啓一 2024年12月25日)

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